お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “春はもうお隣りだよ♪”


いよいよの春を実感出来よう弥生三月の到来だってのに、
その始まりにあたっては、
都心でも積もるほどの雪が降った日もあって。

 『西の方では、
  いいお日和で春の暖かさだったそうですのにねぇ。』

テレビで報じられたスカイツリーの竣工完了のニュースも、
その展望台が降りしきる雪で霞んでいたほどだったのが何とも印象的で。
あれまあと、
お膝に乗っけていた小さな家人らと顔を見合わせてしまったもので。
そうまで長っ尻な寒波ともなると、
もう一つほど気を回さねばならぬことがある。
寒さが苦手という御主が、
されど興が乗ったら夜更まで、執筆にと起きているお人なので。
暖かいお夜食を差し入れたり、
集中したいからと暖房を低めにしているならばと、
足元に分厚いクッションを置いたり膝掛けを勧めたり、
多少は煙たがられても臆せずに、
手当てを尽くして差し上げる晩が何日か続いたものの。

 「おや、今日の雨はそんなに寒くはないようですね。」

昨夜来から、
なかなかに強い風が吹き荒れていたらしき風籟の音がしてはいた。
ポーチのプリムラの鉢は無事かなぁ、
久蔵やクロちゃんは得体の知れない物音へ怖がってないかなぁと、
どうにも気になってしょうがなく。
ついつい寝室から離れては、
リビングまで伸して確かめて回ってしまった敏腕秘書殿。
やっと明けた朝を迎えて、カーテンを開けて回るそのついで、
リビングへは暖房が要るかなと、少しほど大窓を開けてみたものの。
先週などに降っていた、
すぐにも雪へと変わりかねない冷たい雨とは微妙に肌触りが違っており。

 「みゃうに?」

ふかふかのボアの中敷きが暖かい、
2つの小さなネコベットを据えていた、
壁に寄せられたソファーから飛び降りての、
ぱたたっと駆け寄って来た小さな家人が。
木綿のチノパン越しながら、
外を伺う七郎次のすらりとした脚に、
小さなお手々でぎゅむと掴まりつつ、
一丁前にも同じようにキョロキョロとお庭を見回す真似をしてから、
無垢な眼差しでおっ母様をひょいと見上げて来たものだから。

 「〜〜〜〜〜〜。////////」

まだまだ丸ぁるく、ふわふかなお餅のような、
稚(いとけな)さが強い輪郭のお顔に据わっているのが、
潤みの強い双眸や ちょんと小さな小鼻に、
野ばらの蕾もかくあらん、
縁が立っているのに やわらかそうな緋色の口許と来て。
かっくりこと小首を傾げる仕草もお約束な代物の筈なのに、
見ているこちらが挙動不審になるほど愛らしくって……

 「なんて怖い子っ、この子は もうっvv」
 「七郎次、怖いのなら普通は逃げ出さぬか。」

もうもうと言いつつ、その懐ろへ
優しくながらも ぎゅーっと抱き込めてどうするかと。
いつ寝ていつお起きになられたやら、
昨夜も執筆に励んでおられた島谷せんせえが、
もう一人の幼い家人、小さな黒猫のクロちゃんを、
大きな手のひらの上へちょこりと抱えて運んで来てくださっており。
そちらを振り返った金髪白皙の美人秘書殿が、
たちまち はうぅ〜っと口許へ自分の拳を寄せて見せ、

 「うあ、なんてまた小さいクロちゃんでしょうねvv」
 「そうか? いつもとさほど変わっとらんぞ?」

いえ、勘兵衛様の手が大きいから、
小さめのおはぎみたいに見えたもんでと。
それがまた“可愛い〜vv”という彼の萌え心に火を点けたらしく、

 “……もしかせずとも、これが若さの秘訣なのかも知れぬな。”

こちらさんも、真ん丸な小さいお顔の
小さな兎口(みつくち)をお上品にもちょこりと開けて。
みゃあと糸のような細いお声で鳴いたのが、
これまたおっ母様の何かに響いたらしく、

 「〜〜〜〜vv(もうもうもう)////////」
 「判ったから、久蔵をそろそろ解放しておやり。」

ついつい、手元に抱えていたもう一人の別嬪さんを、
むぎゅうと抱きしめておいでの秘書殿へ、
苦しそうではないながら、それでも離しておやんなさいと、
注意喚起をしてやるのもまた、
勘兵衛せんせえには もはや日課のようになっておいで。
とはいえ、言われた側はそれどころじゃあない勢いで、
ハッと我に返っての手を緩め、

 「あ、あっ。ごめんごめん、久蔵っ。」

小さな子供には、
いきなりの力づくなんて いじめにも等しいことかもと、
大慌てで愛しい金髪の坊やを覗き込み、
痛かったかい? 平気?と案じるお声をかけてやり。
それへと応じる坊やはといや、

 「みゅ〜ん、にゃんvv」

柔らかくって いいによいの懐ろは
久蔵にはお気に入りの場所なので、
にゃうみゃんと長鳴きしもってにっこり微笑い、
小さなお手々で自分からもしがみついて見せるお茶目さん。
その所作がまた、

 「〜〜〜〜〜〜。//////」

そちら様こそ柔らかな頼りないお手々で
抱っこ抱っこと甘えられてるようなものなので。
ほのかな体温ごと擦り寄られる“きゅぅうん攻撃”に
坊やたち好き好きなおっ母様が抗えるはずもなく。
か〜わい〜い〜vvとばかり、再び抱きしめ直しているキリのなさ。

  特に暦を追わずとも、
  こちらのお宅じゃ、春の気配が既においでで。

抱きしめられたのが心地よかったか、
みゃうみゃうと甘い声で鳴きつつ、
満面の笑みにて自分からも抱きつく久蔵ちゃんの様子に、

 “こっちが素の顔だと思えるのは、感覚としておかしいんだろうか。”

真夜中の大妖狩りの方の顔を知っていてもなお、
すんなり そうと思えるのだがなと苦笑が隠せない壮年殿と、

 “こうまで可愛らしいところがあるから、
  御主は彼の守護役を辞められないのだろか。”

何なら自分のような、いやさもっと小物でもいい、
指定された絶対聖域を一度だけ保守出来る級の式神を、
アラームの代わりに張りつけとくだけでいいのにと。
勘兵衛ほどの能力者なら、
何が起きようと一瞬で“合”という錯綜障壁型の結界を張り、
その場の支配をした上で、
自身もまた駆けつけることが出来ようから。
平素から傍らにいずとも、何とでもフォローが可能なことだのにねと。
永の歳月、
ほぼ人生ごと寄り添わせておいでな入れ込みようなのへの、
なんて判りやすい答えなんだろかと。
今は仔猫だが、実は頼もしい式神殿が、その内心でくすすと微笑う。


  窓の外はあいにくの雨だけれど、
  そこに桜が満開でも不思議はないほど、
  皆してほっこり暖かい。
  そんな笑顔の耐えない、春色の朝でございます♪




   〜Fine〜  2012.03.05.


  *テマリみたいな仔猫が二人、
   ちょんちょんてんとん弾んで弾んで、
   まろぶように駆け回ったり、遊んでいたり。
   小さな前足でこちらへちょいちょいって合図をし、
   つぶらな瞳ではっきりと見上げて来て
   “にゃ〜う・まう”って甘く鳴いたり。
   七郎次さんにしてみれば、
   どんな豪雪の日であろうと、
   もしかして暖房が効かなくとも、
   ほんわかと幸せな冬だったことでしょうねvv

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